肛門科 クシャーラ・スートラとは
クシャーラ・スートラ(Kshara Sutra)とはサンスクリット語で「アルカリ性の糸」「腐食性の糸」という意味です。クシャーラとはクシャラナ(取り除く、溶解させる)とクシャナナ(傷を作る、破壊する)を合わせたクシャラという言葉の形容詞です。この糸はインドで数千年前より受け継がれてきたアーユルヴェーダ(Ayurveda)という伝承医学の中で、痔瘻の治療に用いられてきました。基本的な手技はseton法と変わりはないのですが、特殊な生薬を糸に染み込ませることにより組織の切断と再生を同時に行います。
本邦では1985年、スリランカの医師ウパリ・ピラピテイヤ博士がクシーャラ・スートラ糸を富山医科薬科大学に持参し、同大の田澤賢次先生(富山医薬大名誉教授)が使用されたのが最初です。ピラピテイヤ博士の持參した糸に使われている生薬の種類は、
1. Apmarga ケイノコズチ(Achyrantes aspera)を蒸し焼きにした灰:アルカリで組織の切断を行う腐食作用
2. Snuhi サボテンタイゲキ (Euphorubia antiquorum) の分泌乳液:患部の肉芽形成を促進し、粘着性があり、他の薬剤を糸に付着させる作用
3. Harida ウコン (Curcuma longa) の微粉末:抗炎症と殺菌作用
の3種類でした。
その後、金沢大学薬学部の御影雅幸教授がその成分を科学的に分析しました。「薬草はその土地にあるものを使用する」という御影雅幸教授の思想に基づき、3のウコンはそのままですが、
1. Apmargaのかわりに、国内に自生するヒナタイノコヅチ
2. Snuhiのかわりに、クワ科のイチジクの未熟果実から得た乳液とトウガラシチンキ剤を用いた純国産の「金沢糸1号」
を完成させました。
富山市の不二越病院においては、山本克弥外科部長のもと、約20年の間に1000例以上の症例に使用され、94~95%の高い治療効果をあげています。この治療はクシャーラ・スートラ研究会に参加している肛門外科に熟知している医師しか施行を禁じられています。
洛和会音羽病院ではより高い治療効果を得るために、痔瘻の瘻管に確実に糸を通す特殊な器具を開発。この糸を用いた、皮膚の切開範囲のより小さい、術後の痛みを可能な限りなくす痔瘻手術を目指しております。