洛和会ヘルスケアシステムは「医療」「介護」「健康・保育」「教育・研究」の総合ネットワークです。

診療予約・お問い合わせ
電話:0758029029
月~金曜日:午前8時30分~午後5時
※土・日曜日、祝日、年末年始(12月30日~1月3日)を除く

変形性膝関節症

変形性膝関節症(一般に膝OAと呼称される場合があります)とは、先天的要因や関節の過使用により、衝撃吸収に作用するクッションの役割の関節軟骨が減少したり、関節が変性し骨棘(骨の棘)ができて膝関節に痛みが出る病態を言います。本邦における変形性膝関節症は50代以降の年齢に多く、2004年の日本人口から患者数を概算すると男性840万人、女性1,560万人の計2,400万人と推測されています(※1)。
進行するとO脚(内反変形)またはX脚(外反変形)に変形します。初期症状は違和感があったり軽い痛みがある程度ですが、進行すると歩行時や階段昇降時、正座を行うときに膝関節に痛みが出る場合があります。本邦ではO脚が多く、重症例では歩行不能となり、日常生活動作(立ち上がり、歩行、階段など)が著しく制限されることがあります。

  • 初期:長距離歩行後の膝関節の痛みの出現や、起立・着座動作時、または歩行開始時の疼痛が特徴的です。
  • 中期:膝関節の曲げ伸ばしがやりづらくなったり、歩行時の痛みの増悪、階段昇降や正座が困難になります。
  • 末期:夜間痛(痛みで眠れない)や安静時痛(じっとしている時に痛い)が起こります。また膝関節の変形が目立ち、膝関節の曲げ伸ばしがさらにやりづらくなり歩行が困難になります。

変形性膝関節症の治療では手術療法以外では骨の変形を治すことはできません。しかし、変形を遅らせたり痛みの軽減を図ることが可能です。

※1 吉村 典子:『骨粗鬆症及び変形性関節症の発症要因の解明:長期観察住民コホートの統合と追跡』科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書,2012,6

原因

発症機序は大きく2つに分けられます。

  • 一次性:明らかな原因がなくはっきりとしませんが、加齢とともに慢性的な機械的刺激が加わって発症します。
  • 二次性:外傷や半月板切除術後、あるいは炎症性・代謝性疾患に伴って生じる原因が明らかなものです。

本邦では発症頻度として一次性が多いとされています。長期間におよび膝関節への負担がかかる姿勢をとっていたり膝関節が内に入った状態(knee-in姿勢)での立ち座りや階段昇降など、力が加わる動作の繰り返しにより慢性的に膝関節にストレスがかかります。
変形性膝関節症のガイドラインによると変形性膝関節症の原因は加齢、体重増加(肥満)、女性、力学的負荷、膝関節周囲の外傷歴など多くの原因が関与して発症するとされています。膝関節に荷重ストレスがかかる動作でKnee-in姿勢をとる場合、痛みが増悪することが多いです。膝関節には体重の4~6倍の負荷がかかるとも言われ、肥満により症状を増悪させてしまいます。

診断

基本的に臨床症状と画像所見で判断します。
臨床症状では、特に痛みについての問診や触診にて膝内側の圧痛(押した時の痛み)があるか、膝関節の動揺性、膝関節の可動域、関節の腫れや関節変形の程度を確認します。
またそれらに加え、画像所見(レントゲンやMRI)を用いて診断します。

画像診断での変形性膝関節症の分類としては Kellgren-Lawrence分類によって重症度が分けられます。

Kellgren-Lawrence分類

  • グレード0:正常
  • グレード1:疑わしいわずかな骨棘
  • グレード2:明確な骨棘、関節裂狭小化の可能性
  • グレード3:中等度の骨棘、関節裂隙の狭小化が明確、硬化像中程度
  • グレード4:著名な骨棘、関節裂隙の狭小化が中程度、硬化像著名、関節輪郭の変形明確

治療

保存的治療と観血的治療(手術療法)に大別されます。膝関節の痛み、可動域を改善させ膝関節の機能を高めながら症状の進行を遅らせることが目的となります。
原則的に第一選択としては保存療法が選択され、薬物療法・装具療法・運動療法を行います。しかし保存療法にて改善しない場合は観血的治療を考慮します。

保存療法

薬物療法

薬により疼痛を緩和させます。軟膏や湿布などの外用薬、非ステロイド系消炎鎮痛剤の内服薬、座薬、関節内注射があります。これらは病気を治すために使うのではなく炎症や痛みを抑えて日常生活を送りやすくするためのものです。使用方法や薬を自己判断で中断せず、医師に確認することが必要です。

装具療法

膝関節の変形によって不安定になった膝関節の保護、膝関節への負担を減少させるために使用します。 O脚やX脚によって、変形性膝関節症が悪化することが多く、変形の進行を遅らせるために靴の中敷に足底板を用いて姿勢を修正する装具療法が行われます。

生活指導

日常生活で無理な姿勢や動きを行い、膝関節への負担をかけている人が多く、症状の進行を助長していることが多いため、膝関節に負担のかからない生活動作を指導します。また肥満などが大きな原因となるため食事や運動習慣についても指導します。

運動療法

リハビリテーションにより下肢の筋力を向上させたり、物理療法実施により疼痛の緩和、減量や動作改善により症状の進行を遅らせます。これについては後述します。

手術療法

目的は、(1)除痛(2)膝関節可動域の維持・改善(3)膝関節の静的安定性の確保(4)膝関節のアライメント修正があります。
保存的治療で十分な効果が得られなくなった場合は手術を検討します。特に膝関節の痛みが強すぎたり、日常生活が困難になっている場合は手術を検討する時期と言えます。適切な時期については医師と詳しく相談してください。

種類としては、

  • 関節鏡視下滑膜切除術
  • 高位脛骨骨切術
  • 人工膝関節単顆置換術
  • 人工膝関節全置換術

このような手術が医師の判断にて行われます。

予後

変形性膝関節症の予後としては、手術療法以外で擦り減った関節軟骨や変形した骨自体が回復し元に戻ることはありません。保存療法を行い、適切な姿勢・十分な筋力をつけることで症状の進行を遅らせること、痛みを軽減していくが大切となります。
手術した場合もリハビリテーションにより膝関節の可動性を良くしたり、筋力をつけることが必要となります。

保存リハビリテーション

リハビリテーションでは、以下に紹介するような運動療法を実施することで疼痛の軽減および膝関節へのストレスの軽減を図り、日常生活の質を向上させることを目的として実施します。
変形が進んだり症状が進行することを遅らせるために下肢筋力の向上、体重の減量を行い膝関節への負担軽減を図ることで予防していきます。
また、運動療法に加えて膝関節の状態に合わせ、物理療法や薬物療法を併用します。

膝関節周囲の筋肉や膝蓋骨(膝の皿)周りの脂肪組織(膝蓋下脂肪体・膝蓋上嚢)の柔軟性を向上させ、膝関節の可動域を向上させます。膝蓋骨には膝関節を曲げ伸ばしする際に重要であり、柔軟性が低下することで膝関節の曲げ伸ばしを制限したり、衝撃吸収の役割ができず痛みにつながります。

※以下の画像はクリックすると拡大表示されます。

歩行

歩容には筋力(特に下肢と体幹)や姿勢が大きく影響します。膝関節は、股関節と足関節に挟まれている関節のため、このどちらかに問題がある場合があります。
例えば股関節周りの筋力が不足していると臀部(お尻)の筋肉を使って体重を支えることができずに膝関節に負担がかかり痛みが生じたり、体を左右に大きく揺らしながらバランスを取って歩くことが多いです。その場合、股関節周りの筋力トレーニングや片脚立ちなど、バランス訓練を行い、歩容を改善させていき膝関節への負担を減らします。

階段昇降

階段昇降での痛みがある場合、knee-in姿勢で階段を使用していたり、降段の際に大腿四頭筋による踏ん張りが効かず着地の際に衝撃吸収力が不足するため、膝関節への負担が大きくなることがあります。鏡の前で視覚的にknee-in姿勢の修正を行なったり、大腿四頭筋や股関節周囲筋の筋力トレーニングによりknee-in姿勢を改善します。
それでも改善できない場合は階段昇降時の足を出す順番を変えます。足を出す順番によって膝関節へのストレスのかかり方が変化します。昇りでは先に出す足、降りでは後に残る足に大きな力が必要であるため、それに耐えきれず、痛みが出現する場合があります。昇りは痛みのないの足、降りは痛みのある足から先に出し、1段ずつ昇降します。これにより痛みのある膝関節への衝撃やストレスが少なくなり、痛みが少なくなる場合があります。

良い例

良い例

knee-in姿勢

knee-in姿勢

立ち上がり

いすからの立ち上がりでは膝関節が足先よりも前に出ている姿勢になっていたり、knee-in姿勢で立ち上がることで膝関節の内側に痛みを訴えることが多いです。膝関節が足よりも前に出ず、真っ直ぐのまま立ち上がることで膝関節の内側への荷重ストレスが減り、痛みの軽減につながります。そのためには股関節や膝関節の筋力を十分に向上させる必要があります。

良い例

良い例

knee-in姿勢

knee-in姿勢

このように日常生活の動きの中で、無意識に動いている時の癖や力の使い方によって痛みを増悪させている場合が多くあります。動作を見直し、修正することで痛みの改善を期待でき、安心して日常生活を送ることにつながります。

自主トレーニング

外来リハビリテーション以外の時間での自主トレーニングは症状の進行を遅らせ、生活の質向上のために必要です。
担当療法士と相談し、できる範囲での運動を行っていきましょう。基本的には外来リハビリテーション中に行ったことや、自宅でもできるような簡単な運動を行います。当クリニックでも「おうちでできるリハビリ動画」を作成しておりますので、ぜひ参考にしてみてください。

疾患別治療・リハビリテーション

ページ上部へ