RC-DIG訓練【洛和介護-DIG】

―地図や図面などを用いて行う災害図上訓練のススメ―

介護施設において、火災などによる被害を軽減するため、消防法に基づき、年2回以上の消防訓練などが義務づけられています。しかし、年2回の訓練だけでは、その施設の防火・防災能力を向上させることは、非常に難しいと言えます。

洛和会ヘルスケアシステムの介護施設では、年2回の消防署へ届出をした署員立会の訓練のほか、自主的な消防訓練を2カ月に1回実施しています。この自主的な訓練で、手間暇がかかりすぎたり、実施することが負担となり、本来の業務(介護サービス)に影響が出てきては本末転倒です。

施設の管理者の皆さんは、自主的な訓練は必要だけれど、業務の負担にならないようにするためにはどのような訓練をすれば良いのか悩んでおられるのではないでしょうか? この自主的な訓練を、より効率的に実施することができれば、施設の防火・防災能力は格段に向上し、さらに安心・安全な施設となります。
現在、効率的な訓練の手法の一つに、多方面で活用されている「災害図上訓練:DIG(Disaster Imagination Game)」があります。

DIGは、災害が起こった際にどのような行動をとるか、地図や透明ビニールシートを使用して机上で行うゲーム感覚の防災訓練です。地図の上に透明ビニールシート敷いて、知っていることをマジックペンで記入していくことにより、参加者にいろいろなことを気づかせてくれるゲームです。

しかしDIGは、小規模な介護施設などでは、規模が大きすぎたり手間がかかりすぎます。このため、当会独自に小規模施設用の新たな訓練手法を考案しました。それが、「RC-DIG(RAKUWA Care(介護)-DIG)」です。

RC-DIGへの評価

 

RCーDIGのご紹介

準備するもの

小さい規模の訓練であれば、地図と色ペンなどの筆記用具があれば実施できます。

地図……… 施設の平面図(できるだけ拡大した各階のもの)など。
参加者全員で地図を囲み、直接平面図などに書き込んだり、付箋を貼り付けたりします。
筆記用具… 多色ペン(3色程度)、付箋、丸型シール、普通紙、メモ帳、はさみ、セロハンテープなど。
付箋には、気づいたことや重要なことを記入して、地図に貼り付けます。丸型シールなどがあれば、人や設備の位置を明示できます。

下のボタンをクリックすると、PDFが開きます。必要であれば印刷してご使用ください。

参加者

「RC-DIG」は、情報プロットゲームと図上イメージゲームとがあり、ファシリテーターとプレイヤー、オーディエンスに分かれて、楽しく実施します。

ファシリテーター… 管理者またはフロアリーダー的な立ち位置。司会進行や行き詰まったときの助言や誘導を行い、事前に作成した訓練想定をプレーヤーに示します。
プレイヤー………… 参加するそのほかの職員。施設に関係する職員の誰もが参加できます。
オーディエンス…… 図上イメージゲームでプレーヤーでない職員。ゲームはしませんが、ゲームを周りで見て、プレーヤーと同じようにイメージながら参加します。

それではゲームスタートです!

以下の内容に沿って、ファシリテーターがゲームを進行していきます。

情報プロットゲーム【15分】

防災地図・ブロット作成(10分)

ファシリテーターとそのほかの職員全員が力を合わせて、知っている情報をプロット(書き込み)します。施設の平面図に、防災上でプラスにもマイナスにも働くものを記入します。気がついたことはできるだけ書き込んでください。書き込み方は自由。地図記号や付箋、丸型カラーシールも使ってください。ファシリテーターは、ゲームが進むよう、書き込む情報などが参加者から出るよう、助言・誘導し、「防災地図」を作成していきます。

助言項目吹出し
職員数(昼間・夜間などそれぞれ)を職員勤務人員表に記入。時間帯ごとのマンパワーが確認できます。また、利用者の数を階ごとの付箋紙に記入し、地図に貼り付けます。

各個室ごとに「独歩可能者」「避難困難者」を色分けし、付箋を貼る。認知症の場合は、付箋に書き込む。(記入例参照)
付箋を貼ったあと、図面の余白に各階ごとの独歩可能者数・避難困難者数・認知症数を記入。
職員によって利用者の独歩可能など、認識が異なる場合は、話し合い、一致した認識にします。

施設に設置されている消防用設備「消火器」「補助散水設備(屋内消火栓)」「自動火災報知設備の受信機・副受信機」「スプリンクラーの制御弁」「防火扉」「排煙窓」「誘導灯」などの設置位置を地図に記載します。
※記入する記号は[消防設備等記号凡例]を参照
施設についての留意事項などを記入。以前に施設内で起こった事故内容や地域との関係性、そのほか気づいたことなどを、色分けした付箋に記入します。
防災点検表(5分)

参加者一人ひとりが「防災地図」を見て感じた、防災上プラスになるところ、マイナスになるところについて発言してもらいます。ファシリテーターは、発言内容を一覧表にして簡潔に書き込み、「防災点検表」を作成します。この施設における注意が必要な項目や今後の改善項目が、「防災点検表」のマイナス項目から、はっきりと見えてきます。

※防災点検表は、図上イメージゲーム終了後にもう一度記入していただきます。

以上で、情報プロットゲームは終了です。

これで参加者全員の知っていること・気付いたことは全て「防災地図」と「防災点検表」に落とすことができ、この施設の防火・防災に関する情報を抽出することができました。これだけでも、防火・防災に関する情報を参加者全員が共有できます。
時間がない場合は、一旦ここでゲームを終了し、後日、この防災地図などを使って、次の「図上イメージゲーム」を行うことができます。

図上イメージゲーム【10分】

情報プロットゲームで作成した「防災地図」と「防災点検表」をもとに、ゲームを進めます。
ファシリテーターは、事前にどのような内容で訓練(火災、地震、救急など)を実施するか検討し、「訓練想定」や「時系列に沿った想定・質問など」を事前に準備しておきます。事前準備することで、ファシリテーターである管理者やフロアリーダーの防災能力は格段にアップします。
まず、プレイヤーに「訓練想定」を付与してゲームを進めます。次に、時系列に沿った想定を出していき、プレイヤーに判断を仰ぎます。プレイヤーがどうすれば良いのか判断に迷っている場合は、質問などを投げかけて誘導します。

今回は、訓練想定を「火災」としてゲームを進めていきます。
※想定は、実施する施設・規模などにより変わります。

1.ファシリテーターが、参加者全員に「前提条件」と「訓練想定」を提示します。
前提条件吹出し

上記は、防災地図の通りです。この訓練では、スプリンクラー設備については、ないものとして進めます。

訓練想定吹出し

オーディエンスの方は、ゲームには参加しませんが、実施されているゲームを見て、自分だったらどうするかを考えてください。

2.ファシリテーターから、各プレイヤーに時系列に沿った想定と質問を投げかけて、ゲームを進めます。

※以下、ファシリテーターの質問とプレイヤーの回答は、模範的なものです。

プレイヤーAに質問

ファシリテーター
「火事だー」との声で火災に気がつきました。プレイヤーAさんは事務所にいます。どのような行動をしますか?
プレイヤーA
周囲を確認。自動火災報知設備の受信機の位置ををランプの点灯で確認します。
ファシリテーター
「助けてー! 火事だー!」という声が聞こえました。どのような行動をしますか?
プレイヤーA
自動火災報知設備のボタンを押します。
消火器を持って、声のした部屋に向かいます。
ファシリテーター
2階の東南隅の部屋から煙が出ており、火災であることを確認しました。どのような行動をしますか?
プレイヤーA
利用者を出火した部屋から廊下に連れ出し、すぐに消火器で初期消火を実施します。

プレイヤーBに質問

ファシリテーター
プレイヤーBさんが出勤してきたとき、玄関口で警報音に気がつきました。どのような行動をしますか?
プレイヤーB
急ぎ建物の中へ入り、騒がしい2階へ駆けつけます。
ファシリテーター
2階の廊下で利用者を見つけます。また、東南隅の部屋でプレイヤーAさんが初期消火をしているのを見かけます。どのような行動をしますか?
プレイヤーB
大声でプレイヤーAさんに状況を確認し、廊下にいた利用者を階段の方に一時的に避難させます。
ファシリテーター
出火した部屋の利用者は負傷はしていません。どのような行動をしますか?
プレイヤーB
この場所を動かないように指示をして、もう一度、出火した部屋へ向かいます。

プレイヤーCに質問

ファシリテーター
数分後にプレイヤーCさんも出勤してきました。どのように行動をしますか?
プレイヤーC
急ぎ建物の中へ入り、騒がしい2階へ駆けつけます。
ファシリテーター
利用者1人が階段室にいます。どうしますか?
プレイヤーC
この場にいるよう指示し、プレイヤーAさんに大声で状況を確認します。
ファシリテーター
状況確認中に事務所から火災通報装置の電話のベルに気がつきました。どのような行動をしますか?
プレイヤーC
火災通報装置の電話に応答します。
ファシリテーター
どのような内容を聞かれると思いますか?
プレイヤーC
自分の名前、燃えている場所、初期消火の状況、利用者の避難状況などを聞かれると思います。
ファシリテーター
その後、どのような行動をしますか?
プレイヤーC
職員と情報の共有をして、協力して利用者の避難誘導を行います。

プレイヤーAに質問

ファシリテーター
初期消火をしていますが、火災が拡大してきました。火災がどの程度になったら、初期消火を断念しますか?
プレイヤーA
天井付近まで炎が上がってきたら断念します。
ファシリテーター
煙が充満してきました。どのような行動をしますか?
プレイヤーA
可能であれば、排煙のため窓を開放します。
ファシリテーター
出勤してきたプレイヤーBさんに、どのようなことを依頼しますか?
プレイヤーA
2階の利用者の避難誘導を一緒にしてもらうよう依頼します。
ファシリテーター
どこの部屋の利用者から避難誘導を行いますか?
プレイヤーA
出火した部屋に近い利用者から誘導します。
ファシリテーター
どこの階段を使って避難させますか?
プレイヤーA
火災発生場所と反対の西側の屋内階段を使用します。
ファシリテーター
避難誘導をして最初の利用者を避難場所へ連れてきました。どのような行動をしますか?
プレイヤーA
プレイヤーBさんとCさんに避難誘導を依頼して、そのまま避難場所に残り、利用者を見守ります。

プレイヤーBとCに質問

ファシリテーター
避難誘導の際に、利用者の部屋の扉をどのような姿勢で開けますか? また誘導し終わった利用者の部屋の扉は開けておきますか? その扉に何かしますか?
プレイヤーB、C
煙を吸わないよう低い姿勢をとり、扉を開きます。利用者を部屋から連れ出し、火煙が部屋から出ないよう扉を閉めます。閉めた扉に、できれば付箋・ガムテープなどで確認済みを表示しておきます。
ファシリテーター
全利用者を屋外の避難場所に避難させました。どのような行動をしますか?
プレイヤーB、C
プレイヤーAさんに全員避難が完了したことを報告します。

プレイヤーAに質問

ファシリテーター
各階の避難誘導が完了し、消防隊が到着しました。どのような行動をしますか?
プレイヤーA
消防隊に、出火場所や火災状況、各階の利用者と職員の人数、避難者数などを報告します。

以上で、図上イメージゲームは終了です。

プレイヤー一人ひとりにゲームの感想を聞いたり、オーディエンスに感想と意見を聞いてみましょう。また、各自がゲームを終えた段階でのプラス面、マイナス面を「防災点検表」に記入してください。

 

以上で、全てのゲームが終了です。

「RC-DIG訓練」は、みんなとワイワイ・ガヤガヤ、ゲーム感覚で訓練ができ、参加者同士の連帯感や信頼感が生まれます。
情報プロットゲームでは、参加者一人ひとりがもっている情報を図面に書き込むことにより、参加者全員が情報共有でき、さらに成果として施設の「防災地図」と「防災点検表」が作成できます。
また、図上イメージゲームでは、「防災地図」を俯瞰(ふかん)から見渡して、自分の必要な対応、活動を考え、示すことができます。「RC-DIG訓練」は何度も繰り返し実施することができ、そのたびに、参加者の防災能力は格段に上がることと思います。時間も30分程度で実施できます。

ぜひ、一度この「RC-DIG」を実施してみてください。

ファシリテーターが、事前に準備する「時系列に沿った想定・質問など」については、「想定問答集」を参考にしてください。

「RC-DIG」を作成した思い

RC-DIG訓練を実施して

施設全体の動きがイメージできる

この訓練を知ったのは、「現場で取り組んでみてはどうか?」と情報をいただいたことがきっかけでした。訓練を実施してみて最も印象に残ったのは、ゲーム感覚で楽しく効率的に行えるということです。情報プロットゲームでは、図面に情報を記録することで情報共有しやすく全体の様子が把握できる点、図上イメージゲームでは、参加者の顔を見ながらのシミュレーションのため、全員の動きが把握できるという点が、大きなメリットだと感じました。
必要な情報の整理もしやすく、簡単で、参加者のイメージトレーニングに役立つため、今後も活用していきたいと思います。

洛和グループホーム太秦 課長 高岸 由美子

自分で考えて発言していくことで理解が深まる

情報プロットゲームでは、独歩可能・避難困難・利用者の認知度など、職員によって、感じ方や捉え方に違いがあることがわかり、認識を共有し、共通のものにできました。また、「消防設備には何があり、それらは、どのようなものなのか」「このようなとき、どういった行動をするか」など、ファシリテーターから質問されるたび、じっくり考えて答えることができました。
普段の訓練では、与えられた役を意識してしまっていましたが、その時々の行動を自分で考えて発言していくことで理解が深まり、大変良い訓練ができたと思います。

ワイワイ・ガヤガヤ、楽しくゲーム感覚で行えたので、次回は違うメンバーで実施したいと思っています。
皆さんもぜひ「RC-DIG訓練」を試してみてください!

洛和グループホーム音羽 係長 祐森 啓子

意欲的に訓練に参加!

「RC-DIGの訓練」を実施する前の消防訓練では、火事が起こったという想定で、消火活動・避難誘導を行うといった訓練を実施していましたが、この方法では、全体の動きがわからないことも多く、職員もあまり意欲的に実施できていませんでした。そんなとき、「RC-DIG訓練」を知りました。RC-DIG訓練では、図面上で一つひとつの動きを確認しながら進めていくため、頭の中で全体の動きを理解することができ、納得しながら訓練を進めることができました。また、さまざまな意見を出し合いながら、わいわい楽しく訓練を行うことにより、職員も意欲的に訓練に参加してくれています。訓練を終えた職員からは「良くわかった」「楽しかった」という感想を聞くことができ、訓練としての効果も現れているように思いました。

洛和グループホーム醍醐寺 副係長 平井 亨