膝内側側副靱帯(MCL)損傷
膝内側側副靭帯(以下、MCL)損傷は、膝の靭帯損傷の中で最も頻度の高い外傷であり、その多くがスポーツ中に発生します。
適切な治療を受けずに放置した場合は半月板損傷など他の傷害を合併する可能性が高くなります。
当クリニックでは保存療法を中心に競技復帰から再発予防までサポートできる体制を作り、リハビリテーションに取り組んでいます。
原因・症状
受傷機転は大きく2つに分けられます。
- 接触型:ラグビーや柔道など内反・外反の外力を受けて受傷するもので頻発します。
- 非接触型:バスケットボール、バレーボール、ハンドボールなどの減速動作の多い種目や、スキーなど膝の内外反が強制される種目で頻発します。
損傷部位はMCLの大腿骨起始部付近(膝の内側やや上の部分)が多く、同部位に圧痛を認め、膝を外反すると激痛を訴えることが多々あります。
圧痛のみで外反不安定性を示さない軽症例から、外反10°以上の不安定性を示す重症例まであります。また、重症例では膝前十字靱帯(ACL)損傷を合併している場合があり、大量の関節血症(関節内が腫れて出血した状態)を認めることがあります。
分類
Fetto&Marshallに基づく分類
- GradeⅠ:MCLの疼痛のみ、外反ストレステスト0°、30°ともに陰性
- GradeⅡ:外反ストレステスト0°陰性、外反ストレステスト30°陽性
- GradeⅢ:外反ストレステスト0°、30°ともに陽性 ⇒ 手術適応
American Medical Associationに基づく分類
- 1度:小範囲の繊維の損傷で不安定性を認めないもの
- 2度:軽・中等度の不安定性を認めるが完全断裂には至らないもの
- 3度:完全断裂
徒手検査
理学療法士が目と手で患者さん一人一人の状況を把握します。
仰向けで一方の手を膝の外側に置き、他方の手で足関節部を持って膝外反を強制します。膝伸展位と30°屈曲位での弛み、痛みを評価します。膝伸展位でも陽性の場合は膝前十字靱帯(ACL)損傷の合併も考えられます。
治療
新鮮例においては支柱付きの装具を装着し、早期より運動療法を開始する方法が一般的となっています。したがって、単独損傷例では損傷の程度に関わらず、原則的に保存療法が選択されます。
ACL(前十字靱帯)やPCL(後十字靱帯)との複合靭帯損傷では不安定性が顕著になるため、再建術を施行する場合もあります。また、GradeⅢの損傷(膝伸展位での側方不安定性あり)では手術適応となります。
予後
損傷度合いによりますが、保存療法では1~3カ月程度での競技復帰を目指します。
単独損傷の場合、保存療法、手術療法ともに予後は良好ですが、複合損傷の場合はゆるみが生じやすいため、後に半月板損傷などを受傷する可能性が高くなります。
リハビリテーション
受傷後は痛みに応じて松葉杖を使用します。
患部はシーネ固定し安静にします。固定期間中は患部以外のトレーニングを中心に行います。
セッティング
SLR
内転筋トレーニング
殿筋トレーニング
徐々にスクワットなどの筋力訓練を行い、筋力向上を図ります。また、電気刺激(EMS)を用い萎縮した筋肉を強化していきます。
エルゴメーターでの持久力トレーニングも徐々に開始していきます。
ヒップアップ
フロントランジスクワット
スクワット
サイドスクワット
カーフレイズ
エルゴメーター
痛みの軽減に応じて負荷量を上げていきます。
片脚ランジスクワット
スターリング
スターリング
多用途筋機能評価運動装置 Biodex system4®という機械を用いて、筋力を測定します。
筋力の回復に応じて、ジョギング、ランニング、アジリティトレーニングと段階的にトレーニングを進めていきます。
多用途筋機能評価運動装置
Biodex system4®
ニーアップ
再発予防
MCL損傷は接触型と非接触型に分けられると記載しましたが、非接触型損傷は体の使い方に問題があるケースが多く見受けられます。ジャンプの着地やカッティング動作は体幹(上半身)と下肢が連動した動きを行うため、それらが協調した動きが求められます。しかし、筋力が不十分であったり、うまく体が使えていないと、膝が捻じれた姿勢(いわゆるknee-in toe-out)をとり、損傷のリスクが高くなってしまいます。具体的に言うと、上半身が右側へ傾いた時、下肢はバランスをとろうとして反対の方向へ動きます。つまり、右膝は内側へ動き、その結果損傷しやすい姿勢を強いられてしまいます。したがって、動作時の体幹のふらつきが膝前十字靱帯(ACL)損傷のリスクを高めることにつながります。
損傷に至るケースはさまざまですが、決して膝だけの問題ではなく全身の評価をしっかり行い、また、競技ごとの動作の特徴を把握することが大切だと考えています。