洛和会ヘルスケア学会
第30回 洛和会ヘルスケア学会 総会リポート
超高齢社会に向け最前線の現場から多くの提言
節目の第30回を迎えた洛和会ヘルスケア学会 総会が10月20日(日)、京都市左京区の京都市勧業館(みやこめっせ)で行われました。洛和会ヘルスケアシステムの医療、介護、健康・保育施設などの医師、看護師、介護福祉士らが日頃、取り組んでいる研究の成果を発表しました。発表は口演、展示を合わせ187件。日々、患者さんや利用者さんと向き合う最前線での研究らしく、「どうする」「どう変える」という具体的な対策を提示する発表が多く、訪れた関係者や同僚たちが熱心に耳を傾けていました。
総会の様子や印象的な発表をリポートします。
- 超高齢社会を支える提言
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医療・介護の現場は、さまざまな制度変更など社会の動きと密接につながっています。とりわけ経験したことのない超高齢社会を迎えた今は目まぐるしく動いています。そういう社会の動きを受けたテーマと取り組んだ研究が目立ったのが今年の特徴でした。
その一つが、居宅介護支援事業所21の「運転免許返納について ~高齢者運転からみる現状と課題~」でした。続発する高齢者の交通事故を受け、高齢者の運転免許返納の動きが出ていますが、研究では当会の居宅介護支援事業所のケアマネジャーたちへのアンケート調査を基に「免許が返納できたらそれでいいのか。返納によって生きがいを保てなくなるときもある」と問題提起しています。その上で「利用者が返納しようと思うような環境づくり」が必要だとして、「免許返納後の生活を想定して職員同行で歩いて買い物に行く練習や筋力強化訓練を行う」「免許返上後の役割を失った喪失感に備え、社会参加の機会を保って自尊心を保持できるようにする」などと提言しています。免許返上が進まない背景を考えた高齢者に身近な立場からの有効な提言だと思います。
2025(令和7)年には、団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となり、国民の約18%を75歳以上の高齢者が占め65歳以上の5人に1人が認知症になると予測されています。厚労省は、この2025年をめどに「住み慣れた地域で自分らしい生活を最後まで続けることができるように地域内で助け合う体制」として地域包括ケアシステムの構築を目指しています。
こういうシステムづくりに向けて医療・介護の世界が大きく変わり始めています。それに伴い生じている課題に取り組んだ提言も数多く発表されました。
その一つが洛和会音羽リハビリテーション病院 医療介護サービスセンターの「Mission『地域包括ケアを支えるリハビリテーション病院』の実践 ~部署役割の多様化と自院の可能性について~」と題した発表です。「利用前の患者から終末期医療の協力まで『人生をサポートする視点』」が重要だとし、今後の病院に求められるのは「利用される方の思いを超えたサービスを実現し、価値を提供する事業」と提起しています。「患者さん・利用者さんが100人いれば100通りのそれ以上のニーズや価値観がある」という提言もしていました。 - 在宅医療に取り組む
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地域包括ケアシステムでは在宅医療や、それとの連携の重要性が増します。その課題の取り組みや成果に関する有意義な発表もたくさんありました。
洛和会丸太町病院 リハビリテーション部は「言語聴覚士による訪問リハビリの提案 ~誤嚥性肺炎再入院率減少に向けて~」と題した発表で、2017年度からリハビリテーション部に言語聴覚士が配置され、退院した患者の訪問リハビリテーションを行った結果、訪問患者では誤嚥性肺炎での再入院がゼロだったことを報告しました。在宅でのリハビリテーションの継続の重要性が示された事例です。
洛和会音羽病院 看護部 4C病棟は「最期まであきらめず、患者の希望を叶える在宅療養支援とは」と題した発表を行いました。がんが悪化し緩和ケア病棟に入院した患者が「家に帰りたい」という強い意志を示したため、在宅でオピオイド鎮痛薬(医療用麻薬)を投与できる体制を組み、病棟と訪問看護師らが連携して支援した結果、家族に見守られて穏やかに最期を迎えました。患者の意思を尊重した支援で、在宅医療が増える今後、増加が見込まれる事例でしょう。
今後、増えそうな男性介護者を支援した事例を報告したのは、洛和ヘルパーステーション坂本の「男性介護者を支えるための取り組み」という発表です。「『男性・独身・相談できる人がいない』という介護者が増加している」とし、「家事や介護について分からないのが特徴で、利用者本人と同じくらい介護者の思いを聴く必要がある」と提起していました。今後、他の施設でも参考になる事例です。 - 認知症のケア向上
- 今後増加する認知症の高齢者のケア向上策についても、多くの発表が行われました。認知症のケアの仕方は日進月歩ですが、それぞれの現場の努力で着実に進歩しているのが感じられました。
今、認知症のケアは、問題を起こす高齢者の行動を否定せずに、ありのままを受け入れて寄り添いながら生活になじんでもらう形に変わってきています。そういう事例を報告する介護施設が目立ちました。
洛和グループホーム西院は「その人らしく新しい生活が送れるための取り組み」をテーマに報告しました。グループホーム内で話し相手が見つからず、感情的になったりしていた高齢者に、職員が交代で声を掛けたりして粘り強く寄り添い、グループホーム内に居場所を見つけてもらった事例を紹介しました。
また、洛和グループホーム壬生は「この場所で穏やかに笑って過ごしてもらいたい」と題して、物盗られ妄想や帰宅願望を示していた入居者に職員が笑顔で接して信頼関係を築いた事例を報告しました。「ここに必要な人であることを伝え」職員と一緒にいることを楽しいと感じてもらうように取り組み、「ありのまま受け止める」ことの大切さを強調していました。職員が一丸となって信頼関係を築く大切さが伝わってきました。
独居の認知症の高齢者も増えています。洛和ヘルパーステーション石山寺は「心配しないで大丈夫。一人で何でもできるんやから。 ~認知症の利用者に寄り添って~」と題する発表で、独居になって約5年になり、調理や整理整頓が以前のようにできなくなった高齢者のケアの事例を報告。「自立支援の視点に立ち返り、自分でできるという思いを受け止め、生きがいとなる役割を担ってもらう」大切さを指摘していました。 - 誤嚥防止の取り組み
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高齢者を中心に肺炎による死亡が増えています。その原因になっているのが誤嚥です。前出の洛和会丸太町病院 リハビリテーション部のように、誤嚥性肺炎防止の取り組みの報告が数多くありました。
洛和会音羽リハビリテ-ション病院 看護部 2B病棟は「神経難病患者の誤嚥性肺炎予防に対する取り組み ~患者の“食べる”を支援する~」と題した発表で、嚥下体操や発声練習など嚥下機能を維持・向上させるプログラムを実施したところ、実施後、誤嚥性肺炎を発症した患者はいなかったと報告。訓練の効果を強調し「誤嚥性肺炎の予防は患者の“食べる”を支え生理的ニードの充足につながる」と報告していました。こういう訓練の重要性が今後、より注目されるでしょう。
洛和会医療介護サービスセンター北野白梅町店は「口から食べたい! 食べてほしい!! ~在宅生活でできる誤嚥性肺炎の予防~」で、胃ろうを受けて退院後の高齢者がレスパイト入院のたびに嚥下の訓練を受け、食事の経口摂取を続けている事例を報告しました。経口摂取に移行してからは体力、気力が向上し、家族の介護負担も軽減されたそうです。介護者や支援者も含め誤嚥に対する知識を持つことや、医療機関の栄養士や訪問栄養士との連携の大切さを提言していました。 - 緩和ケア・看取り
- がん患者など終末期の患者の緩和ケアや看取りの機会が、医療、介護の各施設で増えています。
急性期病棟での緩和ケアにどう向き合うのか、を考えたのが、洛和会音羽病院 看護部 4D病棟の「急性期病棟における緩和ケアに対する看護師の意識調査 ~アンケート結果から現状課題を導く~」と題した報告です。急性期病棟には終末期に移行した患者も入院しており、急性期患者の緊急処置などを行いながら患者の看取りや苦痛緩和のケアに取り組んでおり、心理的な葛藤が大きくなっています。他の施設の看護師も共有する悩みでしょう。アンケート結果を見ると、終末期ケアの煩雑さや専門的知識の不足が悩みをより大きくしているそうです。緩和ケアのテンプレートを作成して情報共有し、個々の看護師の不安や迷いを軽減することを提言しています。緩和ケアや看取りという心理的負担の重い仕事を担う現場のスタッフを支える仕組みを、より充実させることが求められているのでしょう。 - その他の課題の報告
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洛和会音羽病院 看護部 ICU/CCUは「当院ICUにおける家族看護に対する困難感への意識調査」という報告で、ICU入院中の重篤な患者の接し方や精神的ケアのあり方を考え、病棟看護師へのアンケート調査を基に提言しています。アンケートでは、多くの看護師が家族への声掛けやコミュニケーションのとり方に困っていました。「患者・家族へ寄り添い、精神的な支えなどの働き掛けができるスタッフ育成が課題」とし、「家族ニードの勉強会や多職種を交えた倫理カンファレンスの導入」を提言しています。最前線のスタッフへのサポートを充実させることが、患者に寄り添う医療の充実にもつながるでしょう。
- まとめ
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例のない全職種そろった学会の成果
開会式では、洛和会ヘルスケアシステムの理事長 矢野一郎が「当初は医師、看護師だけの学会だったが、勉強してほしいという思いで全職種が参加する学会にしました。全職種そろってやる学会は他に例がないのではないかと思う。勉強はずっと続けることが大事だ」と発表者らをねぎらいながら、激励していましたが、その言葉通り全国でも例のないさまざまな職種がそれぞれの現場で行った研究成果を発表する学会です。医療・介護の世界は日進月歩で、理事長の指摘通り常に学ぶ姿勢が求められています。この学会は洛和会ヘルスケアシステムの医療・介護の水準を向上させるとともに、働く各自の実力を上げることに大きな役割を果たしています。
また、学会長を務めた洛和会音羽病院の院長 二宮清は「医療や教育の仕事は聖職。学び続けることが大切だ。そして人が育たないと組織が持たない。こういう研究発表を通じて人が育つ。人を育てるのは褒めること。それが教育の原点」と話しました。勉強し研鑽の努力を積むから聖職であり続けられるとも言えます。院長の指摘する「人を育てる組織」であることを大切にしたいと思います。
閉会式であいさつした学会副実行委員長の洛和会音羽病院 看護部 看護部長 三宅友美が「これまでは治す医療が中心でしたが、今後は住民を支える地域の中にある組織としての役割が求めらます。学会で学んだことをそれぞれの職場で生かしチーム一丸で取り組み、みなさんで頑張ってください」と、医療・介護が転換期にあることを話しながら「チーム一丸」と最も大切な原点を強調していました。
医療・介護の世界は常に進歩しています。そういう進歩は現場のスタッフの日々の学ぶ姿勢が支えていると感じさせられる学会でした。小さな進歩の積み重ねが、患者さんや利用者さんに快適な医療・介護をもたらします。研究成果はもちろん、研究・発表のためのチームワークも間違いなく今後の現場の力になるはずです。
(洛和会企画広報部門 顧問 森田信明)
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