検査・治療について
検査目的の入院
検査が目的の場合、通常7日間の入院となります。
検査項目
1.髄液排除試験(タップテスト)
タップテストとは、背骨から、比較的細い針で髄液を抜く(腰椎穿刺)検査です。髄液を30ccほどゆっくりと抜きます。
早い人では、この検査から1時間後に歩きやすくなるという変化がみられます。検査の翌日に歩きやすくなる人もあります。この変化は、1日だけで元に戻ってしまう人もあれば、長く続く人もあります。また、話し方がはっきりしてきた、尿漏れがなくなったなどの変化が、検査後数日から1週間程度たってからみられることもあります。
タップテストで症状が改善した人は、髄液シャント術での症状の持続的な改善が期待できます。タップテストで効果がみられない場合には、1.経過を見る、2.再度タップテストを行う、3.ほかのテストを行う の3つの選択肢があります。
2.脳 MRI/MRA(正常圧水頭症の診断目的)
最新の3テスラMRIを使って、正常圧水頭症に特徴的な画像所見について検査します。
典型的な特発性正常圧水頭症では、脳室の拡大とともに、頭の天辺(高位円蓋部)あたりの脳実質が詰まって見えます。これに対して脳萎縮では、頭蓋骨と脳実質との間に隙間が見られます。また、脳梗塞や脳の血管の病気を合併していないかを診断します。さらに当院では、3D撮影により脳脊髄液量を測定するとともに、脳実質内に存在する微細な水(間質液)の形態を評価しています。
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特発性正常圧水頭症(iNPH)例
脳萎縮例
3.全脊髄 MRI
特発性正常圧水頭症とともに、頸椎症・腰椎症は、高齢者において非常に多くみられる病気です。頸髄の圧迫や神経根障害などにより、歩行障害や排尿障害が起こることがあります。特に、特発性正常圧水頭症では頸椎症や腰椎症を合併していることがありますので、これらを見逃さないために全脊髄MRIを行っています。
4.脳 SPECT (認知症の診断目的)
SPECT検査では、MRIではわからない脳の血流状態を見ることができます。脳の機能が低下している部分は、脳の血流が低下しています。脳血流のパターンの違いによって、特発性正常圧水頭症、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症の診断を補助します。
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手術目的の入院
検査入院の結果、正常圧水頭症と診断され、髄液シャント術を行うことで症状が改善される見込みがあると判断された場合に手術を行います。通常10日間前後の入院となります。
手術の種類
髄液シャント術には、
と呼ばれる3種類の手術があります。シャント手術は、手術時間は1時間前後と、脳神経外科の手術のなかでは比較的容易な手術ですが、全身麻酔下で行いますので、全身麻酔が問題なく行える状態であることが望ましいです。
入院・手術によって筋力が低下して歩行障害が悪化するのを予防するため、手術前からリハビリテーションを行い、手術後翌日から再開します。ただし、髄液が流れすぎて低髄圧となり、ベッドから起き上がると頭痛が起こる場合があります。次第に症状が軽快してくることが多いのですが、頭痛が続くようであれば、安静が必要となります。通常は、髄液が流れる量を外から調整できる圧可変装置を埋め込みますので、手術後の状態に合わせて設定圧の調整を行います。
1.VP(脳室-腹腔)シャント術
頭(脳室)と腹腔を、皮膚の下に通したシリコンでできた管で連結し、髄液をおなかの中で持続的に吸収させる手術です。前頭部の頭蓋骨に穴を開けて管を挿入する方法(側脳室前角穿刺)と後頭部から挿入する方法(側脳室後角穿刺)があります。後角穿刺は、前角穿刺と比較して整容的に優れている反面、頭部回旋が必要であり、管を挿入する方向がずれやすいという欠点があります。
当院では、手術前に行ったMRIやCTの3次元画像を利用して手術シミュレーションを行い、穿頭する部位と管を挿入する向きを、患者さんの頭の大きさや形状に合わせて計測し、できるだけ確実な手術を行う工夫をしています。
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2.LP(腰椎-腹腔)シャント術
腰(腰椎くも膜下腔)と腹腔を、皮膚の下に通したシリコンでできた管で連結し、髄液をおなかの中で持続的に吸収させる手術です。
手術は横向きになって行います。タップテストのときと同じく、まず細い針で腰椎穿刺を行い、髄液が排除されたことを確認した後に、太い針を挿入して、その中に細いシリコンでできた管を挿入します。その管を背中側から腹側に皮膚の下を通します。
当院では、手術前に腰椎の3次元CT画像の撮影を行い、手術シミュレーションを行うとともに、手術中にレントゲン透視装置を使って、できるだけ確実な手術を行う工夫をしています。
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3.VA(脳室-心房)シャント術
頭(脳室)と右心房を、皮膚の下に通したシリコンでできた管で連結し、髄液を血液へ持続的に吸収させる手術です。最近はほとんど行われていませんが、腹膜炎の既往や腹部の手術の影響で腹腔内が癒着していることが想定される場合には、この手術方法を検討します。
手術後の経過
手術後に、発熱や腹痛、あるいは手術部の皮膚に炎症がないかをチェックします。術後一時的に、発熱や腹痛がみられることがありますが、自然に消失すれば心配はありません。発熱や腹痛が持続するようであれば、髄膜炎などの可能性も考えて検査を行います。
術後、症状が安定した時点でMRIを行い、画像評価を行います。圧可変装置は磁場の影響を受ける可能性がありますので、MRI検査後に設定圧の確認・再調整を行います。(※治療用の磁気機器などは頭に近づけないようにしてください)
高齢者では、ほかにいろいろな病気を合併していることが多く、ご本人・ご家族が期待しているほどには症状が改善しない場合もあります。手術の傷が治り、手術に問題がないと判断されれば、退院となります。
退院後に症状の改善が見られなくなり、元の状態に戻ってしまう場合があります。そのような場合は、シャント管の閉塞がないかどうかをチェックします。「肥満と便秘はシャントの敵」といわれていますが、シャントの閉塞が無くても、髄液の流れが悪くなることがあります。太りすぎと排便の習慣に注意してください。
シャント手術で歩行の改善が得られ、ご本人の歩く意欲が出てくるのはすばらしいことですが、高齢の方が多いので、転倒する可能性がない訳ではありません。介護負担の軽減は望ましいことですが、転倒防止のために、近くでの見守りは必要です。