口腔がん
口腔がんとは
お口の中のことを「口腔」といいます。口腔がんとは、その名のとおり「お口の中にできるがん」のことで、多くは舌、口底(舌の下側)、歯肉(はぐき)にできます。日本では年間約6,000人もの人が罹患し、今後、高齢化社会の進行とともに増加すると言われ、2015年には約10,000人が罹患すると言われています。早期がんの5年生存率は90%と良好ですが、進行がんでは50%と低く、また、治癒しても重い機能障害が残ることがあります。
口腔がんにおいても、早期発見と早期治療がとても重要となります。しかし、早期がんは症状がない場合が多く、医療機関への受診が遅れ、がんそのものの診断が遅れることが多いのです。
口腔がん検診を実施しています
洛和会京都健診センター音羽病院では、「口腔がん検診」を実施しています。自覚症状が少ない初期あるいは早期の口腔がんの早期発見のために、ぜひ定期的に受診ください。
口腔がんの種類
舌がん
歯肉がん
口底がん
頬粘膜がん
硬口蓋がん
口腔がんになりやすいタイプの人
口腔がんは、口の中の衛生状態が悪かったり、虫歯・義歯・口の乾燥などで常に舌への刺激があることが原因のことが多いです。また、タバコやお酒も発生原因であるといわれています。熱い食べ物や辛い食べ物、刺激の強い食べ物も発生に関連しているようです。これは、口腔の粘膜細胞が常に傷つき、細胞の遺伝子(DNA)が、がん化しやすいためで、タバコやお酒、刺激の強いものを食べる機会が多い方は遺伝子を傷つける可能性が高く、口腔がんの発生リスクが高まります。
下記の“口腔がん発生リスクチェック”で自己評価して見てみましょう。
口腔がん発生リスクチェック
- 1日にタバコを10本以上吸う
- タバコは、葉巻やパイプが好き
- 50歳以上で、飲酒時にタバコも吸っている
- 飲酒するとすぐに顔が赤くなる
- 強いお酒が好きだ
- 歯を磨かない、入れ歯の掃除をしない
- 頻繁に舌や頬の粘膜を咬む
- 入れ歯や歯の詰め物が当たって痛い
- 偏食がある(ビタミンや鉄分不足)
- がんになったことがある
「チェックがついた」=「口腔がんになる」というわけではありません。ただし、チェックがついた人は、つかない人に比べて口腔がんになりやすい体質であったり、または口腔がんになりやすい環境にあると考えられますので、注意が必要です。
口腔がんの症状
口腔がんは、直接肉眼で観察でき、手指で触診できるのが大きな特徴です。初期の口腔がんでは痛みや出血はなく、白い病変あるいは赤い病変としてみとめられ、硬いしこりが触れることもあります。白い病変(白斑)は、単に入れ歯が強くあたって白くなっているものもあれば、がんではないが「がん化」する可能性のあるもの、すでにがんであることもあります。がんが大きくなってくると、話しづらくなってきたり、食事が食べにくくなったり、出血・悪臭を伴うようになります。さらに進行すると、首のリンパ節に転移して、しこりが触れるようになります。
下記の“口腔がんセルフチェック”で自己評価してみてみましょう。
口腔がんセルフチェック
- 口の中に硬いしこりがある
- 口の中に出血しやすい場所がある
- 口の中や唇にしびれがある
- 口の中が腫れて、入れ歯が合わなくなった
- 口の中に白い部分または赤い部分がある
- 口臭があると言われた
- 原因不明の歯のぐらつきがある
- 3週間以上治らない口内炎や潰瘍がある、または抜歯後の傷の治りが悪い
- 首のリンパ節の腫れが3週間以上続いている。
上記のような症状に、「私も?」と思われた方はいませんか?
「おかしいかな?」と思ったら、かかりつけ歯科医院や歯科口腔外科などの専門病院への受診されることをお勧めします。
口腔がんの治療
治療法は、「手術による切除」「放射線治療」「抗がん剤による治療」があります。治療の選択は、がんの部位・大きさ・病理組織診断・転移によって決定し、それぞれの療法を単独あるいは併用して行います。
首のリンパ節に転移がある場合には、首のリンパ郭清(頸部郭清術)を行うことになります。また、口腔がんの手術の場合、舌や顎骨、顔面を切除するため、術後、咀嚼(そしゃく)障害、嚥下障害、顔貌の変形などの後遺症が残ることがあります。初期癌の場合、当院では、がんの切除部分にフィブリン糊と吸収性シートを被覆する方法[下の写真]を行い、低侵襲で痛みの少ない手術を行っています。
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1.がん切除
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2.フィブリン糊と吸収性シートで被覆
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3.術後1カ月
切除により欠損が大きくなる場合には、他部位の皮膚・筋肉(前腕皮弁、腹直筋皮弁、腓骨皮弁)などを用いた口腔再建手術(関連リンク:下顎骨再建シミュレーションソフト作製共同研究)を行い[下の写真]、術後の食事摂取機能や審美面(見た目)を考慮した手術をしています。再建に使う組織は欠損の範囲や部位によって決定します。再建手術については形成外科や整形外科が担当することもあります。
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前腕皮弁
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腓骨皮弁
また、術後の顎骨・歯の欠損に対しては、①人工歯根(インプラント)や②顎義歯など[下の写真]による機能回復を行い、QOL(Quality of Life:生活の質)の向上に努めています。
①人工歯根(インプラント)
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1.腓骨皮弁再建後
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2.インプラント一次手術
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3.インプラント上部構造装着
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3.インプラント上部構造装着
②顎義歯
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下顎歯肉癌辺縁切除後
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下顎歯肉癌辺縁切除後
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術後、顎義歯装着
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術後、顎義歯装着
近年では、がん組織に栄養を送り込んでいる動脈に直接抗がん剤を注入する超選択的動注化学療法を行うことにより、手術を回避できることも多くなってきています。放射線治療が必要な症例では、症例ごとに、放射線治療科と綿密に連絡を取り合うなど、最適の治療を行える体制を整え、院内の総力をあげて口腔がん治療に取り組んでいます。
口腔がんの予後
一般的に、5年生存率は40%~60%程度、転移は25%程度と言われています。治療後は、定期的な局所(口腔)、首のリンパ節、肺などの再発・転移チェックのために通院が必要です。当院では、京都の民間病院で初めてのPET-CT検査を導入しており、口腔がんは発見しやすいと言われています。PET-CTでは形や大きさがわかるだけでなく、がんの糖代謝をもとに、がんの活動の様子を視覚的にとらえて発見することもできます。口腔がんのリンパ節転移や遠隔転移など、CTやMRIで発見しづらい場合や、腫瘍が良性か悪性かを診断するのにとても有効です。口腔がん患者の約9%が食道がんや胃がんを併発していることが知られており、PET-CT検査により初診時にそれらが発見された症例もあります。